2011年10月27日木曜日

研究することと、そうではないことを考えてみる

・研究することと、知識が豊富であることは同じではない。(すべての事例を調査すればいいという訳ではない。)

・研究目的と関連のない根拠の提示は、何も説明していないことと同じである。《類似》研究目的と関連のない情報の提示は、読み手の思考の妨げとなるだけである。(雑多な情報をすべて提示すればいいという訳ではない。情報の引き算を心がけよう。)

・研究することは「現実」を批判的に考察するが、否定するわけではない。(個人的には、人びとの現実に寄り添わない研究は聞く耳を持たれないと思う。単なる価値の押し付けにしかならない気がする。「なぜ、あなたがそれを言うのでしょう。」)

・問題意識を持つことと、研究上の問題(課題)設定を行うことは同じではない。(この点については議論があるかもしれない。以下同様。)

・研究することが、問題(とされるもの)の解決に直接的に寄与するわけではない。(直接的に寄与したいのであれば、研究という行為は迂遠である。他のアプローチをお勧めしたい。)

・最後に、中国のことわざ:「授人以魚 不如授人以漁」

2011年10月20日木曜日

『共生と希望の教育学』合評会

『共生と希望の教育学』の合評会がFD(Fucalty Development=大学における研究・教育の向上・改善)の一環として開催されました。この本にはわたしも共著者として参加しています。このうちの1章を担当させていただきました。本を書くということ自体が初めての経験でしたが、今回の合評会はテキストを読まれる側として参加する(自分の書いたものが批評を受ける)初めての場となりました。

3名の先生方から各章について、また本書全体についての批評をいただきました。今回の批評はそれぞれ視点が違っていました。例えば、自分の研究課題に引きつけてのコメント、一冊の本として(各章については一つの論考として)みた場合のコメント、本作りのプロセス自体に対するコメント、というものです。

コメントを聞きながら思ったのは、自分の本(文章)が読まれるというのは、書き手を離れて解釈されるということなんだなと。こんな当たり前のことなのですが、すごく新鮮な経験でした。

目の前に「人(わたし)」はいるのです。けれども、読まれているのは「テキスト」なのです。「研究の批判は、人格の批判ではない」とはよく言われることですが、それを身をもって実感しました。「あぁ、こういうことなんだな」と妙に腑に落ちたのです。

問われているのは、論述の一貫性であり、妥当性です。それを書いた人はいるのだけれど、もうその人の手を離れてしまっているものになってしまったのです。あの子は、旅立ってしまったのです(笑)。

すごく貴重な経験となった今日のFD。開催の段取りをしてくださった皆さまに感謝!です。

この本(『共生と希望の教育学』)について気になった方はこちら。
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/handle/2241/113652

2011年10月10日月曜日

「大学院生学際研究フォーラム2011」

本日、学祭で行われた学術企画「大学院生学際研究フォーラム2011」(院生プレゼンバトル)に参加してきました。この企画の趣旨は「異分野の方にも分かりやすく自分の研究テーマを伝える」というものです。

今回は6名の院生の方の発表を聞きましたが、どのプレゼンテーションも迫力があって素晴らしいものでした(発表15分、質疑5分)。

とりわけ最優秀賞に輝いた方のプレゼンはまるで舞台での演技をみているようで、完全にその世界に引き込まれました。声の出し方、間のとり方、スライドの構成、そして何よりもメッセージがひとつに絞られていたのが印象的でした。(「スティーブ・ジョブズのようだった」というコメントもありました。)欲をいえば、研究内容に関してもう少し丁寧な解説があってもよかったかなと思います。

以下は何点か気づいた点のメモ。

●プレゼンのスキルと研究の内容のバランス
・どちらもバランスよく配合するのは至難の業…。今回の発表は「プレゼン>研究」と「プレゼン<研究」の2タイプに分かれるような気がしました。今回評価されたのは、どちらかというと「プレゼン>研究」タイプの発表でした。研究のオリジナリティーを短時間でアピールするのは難しいですね…。

●研究分野自体のおもしろさ
・自分の研究を発表するにあたって、導入部分で自分の研究が属すると思われる研究分野の特色を説明するのは効果的だと思いました。今回の評価の観点には入っていませんでしたが、この視点を入れたプレゼンは評価が高かったように思います。研究の位置づけが分かりやすくなるので、全体の理解度が増します。その分野がどのような知見を集積しているのか…いわゆる先行研究のレビューにあたるのかもしれませんね。

●人文科学・社会科学研究の少なさ
・今回は情報工学などの研究が多く、いわゆる文系の発表は少なかったです。プレゼンを聞きながら、自分の研究を15分でプレゼンしてほしいと言われたらどうするだろう、とずっと考えていました。そうすると、やはりなかなか難しいのですね…。通常は、専門家以外の聞き手を意識せず研究しているということになりますね。

●学祭でアピールすることの意味
・当初、なぜわざわざ学祭で研究企画をやるのか、疑問に思う節がありました。それよりも普段からできるような交流の方が重要ではないかと思っていました。しかし今回参加させてもらって、高校生や他大学から来た方のコメントを拝聴して「外からの目」というものを意識する必要があると感じました。もちろん、外見ばかり意識しすぎて中身がないというのは問題ですが…。大学内だけではなく、また専門家集団ではない人々と研究に関する知見を交換することの重要性を感じました。この点については、後々もう少しうまく説明したいです。

2011年10月4日火曜日

堀井憲一郎『いますぐ書け、の文章法』

堀井憲一郎『いますぐ書け、の文章法』筑摩書房(ちくま新書)、2011年.

その文章を「いったい誰に向けて書くのか?」。文章を書くときに必要な姿勢(意識)について詳述した書。雑誌記事に関するものだが、論文にも当てはまるところは多い。読み手を想定しない文章の「ひとりよがり」がとことん指摘されている。例示がわかりやすく、またひらがなが多く読みやすい本でした。何よりも勇気づけられる。今書いているもの、あるいは書かなければいけないもの。それを誰に、どうやって届けようかと思案することの重要性。誰かに「届ける」ために文章を書く、ということに気づかせてくれる一冊。

…と、書評(?)風。